ちょっとした用事ができて、数日前に生まれ故郷の群馬県に行ってきた。
茨城県から国道354号線を西に進むと、国道沿いにデイリーヤマザキが何軒かある。
助手席に乗るパン好きな妻は「デイリーヤマザキの焼きたてのパンが食べたい」と見かける度に目を輝かせていたが、私は幼い頃によく通っていたデイリーヤマザキのことを思い出していた。
薄暗いデイリーヤマザキ
それはまだ私が6才くらいの頃。
住んでいた渡良瀬団地から50mほどの距離にデイリーヤマザキがあった。
そこはお小遣いの100円で、好みの駄菓子をどれだけ買えるかという、足し算と引き算の体験学習の場でもあった。
そんな幼いながらに”馴染み”の店に出かけたある日。1人で駄菓子を買いに向かうと、そこはいつもと違う雰囲気に包まれていた。
―開けっ放しの入り口
―明かりの消えた店内
そしてお店には人影もなかった。
恐る恐る店内に入ると、そのうちに最初の戸惑いも忘れ、いつものように駄菓子を物色するのに夢中になっていた。
暗さのせいかいつもより没頭していたのかもしれない。いつの間にか私の手には100円では買えるはずもない”ウルトラマンのフィギュアらしき物”が握られていた。
「ごめんなぁ、もう終いなんだ…」
突然の背後からの声に驚いて振り向くと、そこにはいつも見かける”お店のオジサン”が立っていた。
急に自分が悪いことをしているんじゃないかという気持ちが湧き、しどろもどろしている私に”いつものオジサン”は優しく続けた。
「それが欲しいのかい?」
恐怖心から声も出せず、首を縦に振るのがやっとだった。
「じゃあ持っていっていいよ。いつもありがとうね。」
続けて「もうお店はなくなるけど…」みたいなことを言っていた気がするけど、その後のことはよく覚えていない。
今でもデイリーヤマザキを見かける度に思い出す。
誰もいない店内。
何故か貰えたおもちゃ。
薄暗いデイリーヤマザキ。
そして、どこか寂しげなオジサンの声。
次に見かけたら、今度は寄ってみようと思う。
妻が好きだという焼きたてのパンと、色褪せない思い出の欠片を探しに。
おしまい。